ストレートニュースの価値はゼロになる?――情報流通構造の変化とB2Bライセンスの可能性

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鷹野 凌 2026.05.16
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コンテンツジャパン代表取締役・堀鉄彦氏がThe Bunka News デジタルで連載している「デジタルトレンド」の第82回「米出版社WileyのAI事業売上が急増 AI利用からの一過性でない売上確保に成功」(2026年4月24日配信)が非常に興味深い内容だったので、紹介しつつ考察を加えたいと思います。

WileyがAI向けデータ連携標準技術「MCP」を採用しAnthropicと協業

堀氏によると、「Wileyのプラットフォームが順調に成長している最も大きな要因のひとつがMCPの採用だろう」とのこと。MCPはModel Context Protocolの略で、「Claude」のAnthropicが開発した「AIと外部データやツールを接続する標準規格」です。MCPについて調べると「USB Type-Cみたいに」と比喩している記事がいくつか見つかり、正直、かえって混乱します(しました)。

本件についてコンテンツホルダー側が認識しておくべきなのは、MCPの仕組みそのものというより、堀氏が記事後半で指摘しているように、「AIに論文を丸ごと食わせて終わり」から「AIが論文を参照するたびに出典付きで呼び出す仕組み」にAI企業との関係が変わっていく、という点でしょう。

Wileyは、現状では「AI収益に占めるリカーリング(継続取引)比率は現在10%弱」で、まだ一括納入モデルのほうが売上は大きいようです。ただし「来年は(リカーリング比率が)3倍になる見込み」ともしています(Wileyの決算説明会の書き起こしを参照)。

これと似たモデルは、Cloudflareが提唱したPay Per Crawlです。これは、無料公開されているウェブサイトへのAIボットのアクセスをCloudflareのCDNがブロックし、許諾(=対価を払うことを了承)したAIボットだけがアクセスできるようにすることで、コンテンツホルダーはCloudflareから分け前をもらうというビジネスモデルです。

個人的にこれは結局、別のプラットフォームに違う形で依存することになるため、採用には慎重になるべきだと考えています。まあ、Akamaiも追って同様のモデルを提唱していますから、複数の選択肢があっていつでも乗り換え可能なら、そこまで神経質にならなくて良いかもしれません。

これに対しWileyが構築しているのは、もともと一般公開していないデータにMCPを採用したうえで、許諾したAIだけがデータにアクセスできるようにし、AIが参照するたび対価が入ってくるビジネスモデルです。「無料公開したうえでボットだけブロック」というプロセスがないぶん、こちらのほうがスマートなやり方に思えます。

これはこれで、Wileyが新しいプラットフォームになろうとしている、とも言えますが。

新聞社はWileyと同じようなモデルでAI企業と手を握れるのでは?

ともあれ、このモデルは「論文」に限った話ではなく、もちろん他のメディア企業にも応用できるはずです。とくに、過去記事をデータベースの形で外部提供している新聞社は、著作権を基本的にすべて自社で持っているため、Wileyと同じようなモデルを採用しやすいように思います。

これに対し著作権者からコンテンツを預かっている立場の出版社の場合は、恐らく電子出版権の設定契約とは違った形のライセンス提供になるので、個別に契約し直す必要があるかもしれません(余談ですが書協の契約書ヒナ型見直しはこのあたりの問題解決も視野に入れているようです)。まあ、ゼロから関係構築し直しよりずいぶんマシですが、手間がかかるのは確かです。

いずれにしてもAI企業から見ると、過去データをまとめて購入してAIを学習しても、古い知識しか持っていないAIになってしまうため、新鮮で信頼性の高い情報を継続的に手に入れることには強いニーズがあります。「ChatGPT」が以前は「2021年までの知識に基づいて」と回答していたことを思い出してください。

そしていま、ウェブ空間は「価値ある情報の多くがペイウォールの向こう側」になっています。人間はもちろん、AIボットも無料で情報を手に入れることが難しくなっています。このためAIの学習用に用いられる高品質なテキストデータは2026年に枯渇するとも言われています。

AI企業としては、ちゃんと対価を払うか、なにかしら別の手段――サードパーティのスクレイパーがAI企業のためにパブリッシャーのコンテンツを盗み出しているとか、AIブラウザはペイウォールを迂回するために利用される、なんて報道もありました――で、新鮮で信頼性の高い情報を入手する必要があります。

ストレートニュースの価値はゼロになるのか?

最近、こういったニュースに触れるたび思い出すのは、昨年開催された「Media Innovation Conference 2025」のキーノートセッションでnote CXOの深津貴之氏が発した「ストレートニュースの価値はゼロになる」という言葉です。記事の見出しにも使われている、良い意味でも悪い意味でも、非常にインパクのある発言でした。

Media Innovationの記事では少し表現がマイルドになっていますが、このキーノートセッションを現地で聞いていた私は、深津氏がしきりに「コンテンツの供給量が500万倍くらいになる」「記事はAIが0.1秒で書ける」など、メディア関係者の不安を煽っていたことを鮮明に覚えています。

この「ストレートニュースの価値はゼロになる」という発言を聞いて私が思い出したのは、クリス・アンダーソンが『フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(2009年・NHK出版)で紹介している「潤沢な情報は無料になりたがる」です。「供給量が500万倍」と潤沢になるなら、価値がゼロに近づくのも無理はないでしょう。

ただし、この「潤沢な情報は無料になりたがる」は、「情報は高価になりたがる。なぜなら貴重だからだ」というフレーズがセットになっていることを忘れてはならないでしょう。というのは、私にはむしろ新鮮で信頼性の高い情報の価値はAIの普及に伴い高まっているように思えるからです。

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