なぜ権利者たちはGoogle PlayブックスとGemini Notebookの連携を歓迎したのか? ―― Expert IntelligenceとAmazon Kindleの決定的な違い
Googleが日本で「NotebookLM」の提供を始めたのは2024年6月のことでした。テキスト、PDF、スライド、ウェブページなどをNotebookLMの「ノート」にソースとして放り込むと、Google Geminiに内容について質問して分析調査したり、要約させたりできるサービスです。現在は、Gemini Notebookに名称が変更されています(Googleはサービス名称をコロコロ変えすぎです)。
NotebookLMあらためGemini Notebookが良い点は、アップロードした資料や対話内容がGoogleのAIモデルの学習には利用されない設計になっている点です。OpenAIのChatGPTは初期設定で「モデル改善に協力する」がオンになっており、そのまま使うと入力した内容は学習のために利用されてしまいます。Gemini Notebookはとくに設定など不要で、初めから学習されない仕様になっています。
NotebookLM(現Gemini Notebook)は当初、ソースを元にインフォグラフィックスを作成させたり、ポッドキャスト風の掛け合い音声解説番組を作成させたり、動画解説を作成させたりといった、出力機能が注目されていたように思います。私もご多分に漏れず、初めのころはアイキャッチ画像の作成などに使っていました。自分で書いたドキュメントやスライドを読み込ませれば、ワンクリックで見た目の整った図解が手軽に出力できます。
そしてあまりに手軽だからか、Gemini Notebookに出力させたインフォグラフィックスがあちこちで氾濫するようになりました。あまりに多くの人が使うようになったので、私はGemini Notebookをアイキャッチ画像作成に使うのはやめました。あっちを見てもこっちを見ても、どこか見覚えのあるデザインの図解だらけ。埋没してアイキャッチの目的を果たせなくなっているようにも感じます。というか目が滑るよ。
ポッドキャスト風解説番組の出力も、動画解説の出力も、何回かは試してみましたけど「これはすぐに受け手が飽きるな」と思い、いまでは使っていません。Gemini Notebookの真価は、そういう見た目が一定レベル以上に整った出力機能というより、大量のソースを放り込んで質問・分析・調査ができる点にあると私は思っています。
「Gemini Notebookのソースに本を使いたい!」が実現した
たとえば、官公庁の調査報告書などです。A4サイズのPDFで100ページを超えるようなものもよくあるため、読みくだすのに大変な労力と時間を要します。これをGemini Notebookへアップロードすれば、Geminiとの対話形式で要点を素早くつかむことができます。疑問に思ったことをすぐ質問できますし、ソースの該当箇所へのリンクもあるため確認もすぐできます。
「電子書籍ビジネス調査報告書2026」の原稿を書く際には、自分で書いた「週刊出版ニュースまとめ&コラム」約1年分のGoogleドキュメントを放り込んだNotebookを作り、Geminiを通じて自分が過去に書いたことを要約・参照してもらいながらトピックスを洗い出すのに大変重宝しました。私の担当パートは第4章 社会制度とテクノロジーの第1節「生成AIと出版ビジネス」と第2節「国の施策と法制度」です。
こうなると当然、本をソースに使いたくなるのは人情でしょう。Gemini Notebookは2026年3月にEPUBファイルのアップロードに対応しました。残念ながらDRMフリーのEPUBファイルはあまり流通していませんが、私は自分で作成した自分の本のEPUBファイルを読み込ませて、自分が過去に書いたことを掘り出すために使っています。対話形式だとうろ覚えでも見つけ出せるのが重宝します。
でも、やっぱり「自分で買った本がソースに使えたらなあ」と思ってしまいます。この願望は、恐らくGemini Notebookを使っている誰もが思うことでしょう。それがついに、実現しました。Googleは8月28日、Google Playブックスで購入した本をGemini Notebookへ追加できる新機能Expert Intelligenceの提供を始めました。
Expert Intelligenceはオプトイン形式だった
ニュースを見て反射的に「これって著作権的にどうなの?」などといった反応を示す方が複数いるのを観測しました。まあ、当然の心配でしょう。結論から言えば「Expert Intelligenceは(珍しく)権利関係がクリアになっている」サービスです。
実は、GoogleはExpert Intelligenceをリリースする数日前に、Google Playブックスに読書補助ツール「Book Insights」をリリースしています(日本語サービス名は「スマート読書ガイド」です)。こちらは読書時に使うビューアアプリにGeminiが搭載されたもので、読書体験の補助を目的としたものです。対象は既読部分までなので、未読部分からのネタバレは食らわない仕組みになっています。対象はいまのところ英語書籍数千点だけです。
Book Insightsについては、Google Playブックスと直接取引している出版社には数カ月前にメールが届いていました。放っておくと自動で有効になるため、拒否したい場合は「パートナーセンターの[書籍カタログ]→[詳細設定]で書籍またはアカウント単位でいつでも無効化可能」という案内です。Googleが昔からよくやる、いわゆる「オプトアウト」形式です。
これが直前にあったため、私はExpert Intelligenceの初報に触れたとき、きっとBook Insightsのオプトアウトを転用したに違いないと思ってしまいました。しかし、念のため公式発表を確認してみて驚きました。
Over the past several months we’ve been meeting with authors and publishers to better understand how AI can help people get the most out of their books.(ここ数カ月間、私たちは著者や出版社の方々と面談を重ね、AIが人々の書籍利用を最大限に支援するためにどのように役立つかをより深く理解しようと努めてきました)
つまり、Expert Intelligenceは、著者・出版社とちゃんと協議したうえで同意を得たところとだけ契約して進める「オプトイン」形式でやっていることになります。そして、Google Playブックスで購入した本を追加したGemini Notebookを他の人と共有しても、共有されたユーザー側でも同じ本をGoogle Playブックスで購入していなければ、コンテンツは利用できない仕組みになっています。つまり、複数名のチームでGemini Notebookを共有するなら、そのチーム全員がGoogle Playブックスで同じ本を購入する必要があるのです。
提供開始時点で提携している出版社として名前が挙がっているのは、ブルームズベリー、デ・グリュイター・ブリル、ジョンズ・ホプキンス大学出版局、マクミラン、オライリー・メディア、ペンギン・ランダムハウスです。対象になっている書籍は10万点以上とのことですが、これはもちろんGoogle Playブックスのラインアップ全体からするとごく一部です。そして、こちらもいまのところ英語書籍だけです。
面白いことに、Expert Intelligenceのリリースを伝えるPublishers Weeklyの報道には、プログラムに参加した出版社の称賛する声はもちろん、Authors GuildのCEOまでもが「契約の詳細は知らないけど」と言いつつ期待を寄せている声が記載されていました。リリースから2週間ほど経ちましたが、英語圏ではいまのところわりと好意的に受け止められているようです。
Kindleでやりたい読者と、Amazonに許諾したくない権利者
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