『本を読めなくなった人たち』と、なぜか“本”に含めてもらえない雑誌やマンガ

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鷹野 凌 2026.03.19
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Media Innovation Conference 2026

Media Innovation Conference 2026

私は3月18日に開催された「Media Innovation Conference 2026」のセッション「『本を読めなくなった人たち』を読んで考える出版とマーケティング」に登壇し、著者の稲田豊史氏、KADOKAWAの編集者・菊地悟氏と語り合ってきました。

このセッションはイードの方から依頼され私が企画したのですが、持ち時間は30分と限られていたため「どういう企画がいいかな……」と悩んでいました。そんなとき、たまたま本書が出版され、読んで「これだ!」と。読み終えてすぐ稲田氏に登壇を打診し、快諾いただきました。ありがとうございます。

本書のサブタイトルは「コスパとテキストメディアをめぐる現在形」です。テキストメディア――つまり、新聞、雑誌、書籍、マンガ、ウェブメディアなどが置かれた現状を、若者への対面グループインタビューや関係者へのヒアリングをもとに調査・分析しています。関係者は必読でしょう。

現状はわかった、じゃあどうすれば?

ただ、本書を読み終わって私が思ったことは「じゃあどうすればいいんだろう?」でした。というのは、これは稲田氏自身もおっしゃっていたことですが、本書は「どうすればいいか?」が書かれた本ではありません。現状を明らかにはしていますが、提言は意図的に省かれています。

ならば、その「どうすればいいか?」をテーマに話がしたいと考えました。セッションでは時間が限られていますから、本書に書かれていることではなく、書かれていない「どうすればいいのか?」に集中することにしました。「読んでないならいますぐ買いなさい」と販促もしつつ。

もうひとりの登壇者である菊地氏には、2018年にHON.jp主催セミナー「商人としての編集者」でご登壇いただいたことがあります。実は今回、本書を読んでいる途中でFacebookに「関係者はみんな読むべき」と投稿したら、菊地氏から「終章にぼくが実名で出てきます」とコメントをもらいました。はい、出てきました。せっかくだからと思い、今回のセッションにも巻き込ませていただきました。ありがとうございます。

稲田氏が本書に引用した菊地氏の発言は、出版業界のマーケティングスキルの低さを嘆くものでした。「読者」と「消費者」は採るべき戦略が異なるのに、区別せず語る人が多い、と。ならばその「出版とマーケティング」について「どうすればいいか?」を考えるセッションにしよう、と。

下図は、そのセッションで使ったスライドです。本書の終章にある図をほぼそのまま使わせてもらいました。これは、元は本書の第2章(126ページ)に出てくる、現代人のテキストメディアとの触れ合い方を「本を読む/本を読まない」軸と「おもしろみ/わかりみ」軸の四象限に整理したものです。

終章ではその四象限に、菊地氏の発言を引用したうえで「読者」と「消費者」の分類が追加され、この図の形になりました。セッションではこの図を元に、「読者」と「消費者」それぞれに、どういう戦略を採るべきなのか? という観点で意見を伺いました。

『本を読めなくなった人たち』 p244 図9 消費者 / 読者のテキストメディアとの触れ合いかた より

『本を読めなくなった人たち』 p244 図9 消費者 / 読者のテキストメディアとの触れ合いかた より

このように市場を細分化して考えるやり方は、セグメンテーション――マーケティング戦略のフレームワーク「STP分析」のS(Segmentation)です。Tはターゲティング(自社が狙うべき市場の決定)、Pはポジショニング(競合他社との差別化要素)で、この分析により、誰に、何を、どう届けるかが明確化されます。フィリップ・コトラー氏によって提唱された手法です。

セッションで話したこと

“円本の呪縛”

まず私は菊地氏に、引用された発言の中の「『読者』と『消費者』は採るべき戦略が異なる」について尋ねました。出版業界はこれまでずっと四象限の左下である「本を読まない」層に対し「わかりみ」を提供し続けてきたのだといいます。普段は読まない層まで届いたごく一部の本が、マスプロダクションになっていたと言い替えることもできるでしょう。

大正時代、出版業界では「円本」ブームが起きました。ちょうどいまから100年前のことです。本の販売価格をぐっと下げ、薄利多売するベストセラー戦略です。以来、その成功モデルが100年間踏襲され続けてきたわけですが、そのモデルがさまざまな要因によりいまではもう成立しなくなっていると菊地氏は言います。

これに対し稲田氏は、生成AIの登場によって左上の「本を読む」かつ「わかりみ」を求める層が減っていくことも予想されるが、今後はどこを狙っていくべきか? とターゲティング戦略を菊地氏に尋ねました。菊地氏は、出版社は今後、右下の「本を読まない」層に対し「おもしろみ」を提供していくべきだと説きます。

右上は市場規模が小さいので、値段を上げるしかない。でも個人の書き手であれば、右上の「本を読む」層に「おもしろみ」を提供するやり方もあり得るといいます。ケヴィン・ケリーが「千人の忠実なファン」で提唱したように、個人なら1000人のファンに支えてもらうことは可能でしょう。

生成AIに負けないパーソナリティ

あとはポジショニングです。稲田氏は、情報の密度や整理の仕方では生成AIには勝てないので、生身の人間としては「話術」とか「キャラ」を立てていくか、特殊な「コネ」をもっている(作れる)人しか残れないと考えているそうです。

文章になると削ぎ落とされる著者のパーソナリティが、映像や音声など他のメディアなら伝えられるから右下にもアプローチできる、ということになるでしょう。ちなみに『本を読めなくなった人たち』の販促は、ビジネス映像メディア「PIVOT」への登壇が一番効いたそうです。

本の終章(254ページ)には、稲田氏の著書『映画を早送りで観る人たち』の収入内訳の円グラフが載ってます。現時点でも、講演料など印税以外の率がけっこう高いのです。いずれ追い抜くだろうとおっしゃってました。これも右下へのアプローチでしょう。

セッションでは話せなかったこと

さて、セッションでは持ち時間が30分と限られていたので、もちろん自重した話題もたくさんあります。そこで、ここからはその自重を解き放ってみることにします。以下は、登録すれば誰でも読める、読者限定パートです。

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