HON[.]jp メールマガジン #392 2026年9月21日版
お知らせ
クリス・アンダーソンの名著『フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(2009年・NHK出版)を再読し、日本の出版状況に合わせて考察した10年前の連載コラムが本になりました。最終章は書きおろしの「生成AIとフリー」です。
週刊出版ニュースまとめ&コラム
#732(2026年9月13日~19日)
編集長の鷹野が、広い意味での出版に関連する最新ニュースから気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントします。HON.jp News Blog のウェブサイトでも同時に公開していますので、SNSでシェアいただく場合や、リンクを貼っていただく場合は、こちらのURLをご利用ください。
【政治】
◆ デジタル教科書「大臣指針」議論大詰め、導入学年・教科が焦点に…議連は「紙主軸」の学び求める〈読売新聞(2026年9月13日)〉
先週も「(読売新聞はアクセシビリティについて)ガン無視してますから」と批判したばかりですが、こういう経緯まとめ的な記事ですら一切触れようとしない。言及すると、紙を推進するために不都合があるからだろうなあ。コメントをとってる学識者も、超紙推しで有名な東京大学酒井邦嘉教授だけですし。
◆ K-コンテンツ産業協議会、2030年売上高220兆ウォンへ 税制・金融・法制改革を提言〈DigitalToday(2026年9月15日)〉
韓国コンテンツ関連11団体が発足した協議会です。2030年までに売上220兆ウォン(約24兆円)、輸出270億ドル(約4.2兆円)の達成を目標に掲げているとのこと。国会議員会館で設立総会を開いて政策課題を提示したそうです。経団連の政策提言みたいな感じでしょうか。ジャンルを迷いましたが、政治にしておきます。ちなみに日本政府の「エンタメ・クリエイティブ産業戦略2026」は、2033年までに海外売上高20兆円を目指すという目標です。
【社会】
◆ マンガ特別座談会 飯田一史×西原麻里×三輪健太朗 創作の倫理と戦争へのアプローチ[後編]〈MACC – Media Arts Current Contents(2026年9月14日)〉
例えば電子コミックでは「LINEマンガ」、「ピッコマ」、「めちゃコミック」、「コミックシーモア」がストアの4強ですが
インタビューが2026年3月31日だから『電子書籍ビジネス調査報告書2025』を参照しますが、その4サービスは有料利用者の2位から5位です。つまり1位のKindleストアがここには入っていません。同調査で無料を含む利用率でも、3位にはKindleストア、4位にはジャンプ+が入ってます。つまり恐らく、電子コミック専門店に絞った話なのでしょう。
ちなみに私は以前から、ニールセンやMMD研究所などの調査がマンガアプリだけを対象とし、総合型ストアを除外している点について指摘してきました。繰り返しになりますが「除外されている部分があることを念頭に入れておくべきだ」という話です。正直、不自然だと思うのですよね。リアル書店で、アニメイトやメロンブックスやゲーマーズなどだけを取り上げてランキングしますか?
◆ 【書籍編集者が知った核心】「一案しかラフを出さない」職人肌の装丁家・水戸部功さんの仕事の哲学〈ダイヤモンド社書籍編集局(2026年9月16日)〉
うーん……申し訳ないですが、私ならこのデザインは要修正で差し戻します。赤地に黒文字はP型色覚の方が読めないから。赤地に黒文字、あるいは、黒地に赤文字って、カラーユニバーサルデザインの禁則事項なんですよね。障害者差別解消法や読書バリアフリー法が施行されたいま、そういう配慮を欠いてはいけないと思うのです。
◆ 『ノルウェイの森』も生成AIの学習データにされていた――米AI巨頭の巨額和解金15億ドル、なぜ日本の作家に1円も届かないのか【Anthropic著作権訴訟を読む①】〈SlowNews | スローニュース(2026年9月16日)〉
◇ 「文句があるなら個別に米裁判所へ」は現実的か? 日本からの異議申立が暴いた米AI和解の限界と出版界の課題【Anthropic著作権訴訟を読む②】〈SlowNews | スローニュース(2026年9月17日)〉
2026年2月9日の週刊まとめで言及しているとおり、私はおおむね既知の内容でした。でも、しっかり調べ直してきっちりまとめ直している良記事だと思います。スローニュースだから遅くても良い。でも、少なくとも「どこも報じてなかった」という意味でのスクープではないと思うのですよね。恐らく「大手メディアが報じていない」的なニュアンスだとは思いますが。
しかし、この記事をきっかけに私も少し調べ直してみたのですが、若干誤認識があったらしいことに気づきました。どうやらこの和解は「海賊版データをダウンロードしCentral Libraryに保管していたこと」についてのみ補償しているようなのですよね。まだしっかり検証できていないのですが、どうやら「海賊版データを学習したこと」について、裁判所は明確なジャッジを下していなかったようです。マジか。
判事は「using “pirated” copies to train LLMs is not fair(LLMの学習に“海賊版”を利用することはフェアでない)」と指摘しているし、「not every book Anthropic pirated was used to train LLMs(アンソロピックが違法にコピーしたすべての本が、LLMの学習に使われたわけではない)」とも言っています。つまり、海賊版データの一部が学習用に用いられたことは認識しているはずなのですよね。
でも、判決は「海賊版データをダウンロードしてCentral Libraryに保管していたこと」に絞られているらしい(ここが検証できてない)。そして「正規に購入した本をスキャンしてAI学習に用いた」ことについてはフェアユースと判断している、と。ちょっとややこしく、細かな部分ではありますが、もう少し検証して修正が必要なら追記しておきます。
とはいえ個人的にはやっぱり、正規版だろうと海賊版だろうと、学習用に用いられたことより「Anthropicの社内サーバー(Central Library)にスキャンデータが保管され『学習目的以外にも使う』ことが企図されていた」ことのほうが格段にヤバイと思ってます。学習目的以外って「RAGの参照用(reference)」が主でしょうから。
以前から何度も言ってますが、「AIに食わせる」は、学習なのか参照なのか。2つの異なる意味があるから、混同しないよう注意したいです。学習用で金がとれるのは最初の一発だけですが、参照用は反復して利用されるから継続取引になるんですよね。データベース提供のライセンスと考え方は似ています。
WileyのAI事業売上が急増しているという話の中で、来年はリカーリング(継続取引)比率が3倍になるという見込みもありました。もしAnthropicのCentral LibraryがRAGの参照用に使われていたら、そういう継続取引が発生しなくなる可能性が高くなります。だからヤバイって言ってるんです。
◆ 直木賞作家の中島京子も参加…小説家が自作を朗読・販売する「ノベルリサイタル」とは〈読売新聞(2026年9月18日)〉
読売新聞(大手小町)に取り上げていただきました! びっくり。ただ、取材に来るという連絡はどこからもありませんでしたし、実際、取材にはどこも来ませんでした。トホホ。イベントそのものは盛会で、小説家自身による朗読会は日本でも可能性があることを示せたのではないかと思います。
【経済】
◆ Anthoropic CEOが「AI開発の減速」提言 OpenAIアルトマン氏、イーロン・マスク氏も賛同〈CNET Japan(2026年9月13日)〉
LLMの進化に伴う「AIによる人類滅亡」論って以前からありますが、そこにはなにかまやかしがあると私は思っています。AIがトリガーになることはあると思うけど、滅亡に向けアクションを起こすのは人間です。『火の鳥未来編』はマザーコンピュータ(AI)の暴走シーンが有名ですが、その命令に従って核爆弾(超水爆)を相互にしかけたのは人間のスパイなんですよね。人類を滅ぼしたのは人間なのです。
なお、タイトル「Anthoropic」→「Anthropic」ですが、原文ママとします。
◇ 米国がAI開発を減速→中国がAIで先行してしまう問題 どう対策? Anthropic CEOの回答は〈CNET Japan(2026年9月13日)〉
どういう対策があるのか? と思ったら、これ。
具体策には、先端AIチップや半導体製造装置の対中販売の禁止、密輸や中国から国外のデータセンターへの遠隔アクセスの取り締まりを挙げた。
それさあ……逆に、中国に依存しているアメリカの産業がしっぺ返しを食らう未来が見えますよね。それも即座に。AIのことしか考えてないのかな?
◇ 中国外務省、AI開発「減速論」に反応 「恐怖をあおることや対立、悪性の競争は誰の利益にもならない」〈ITmedia NEWS(2026年9月15日)〉
中国の反応がこちら。わはは。口撃には口撃だ。
◇ 「AIで人類絶滅論」がOpenAIらの権力を強化 「規制される者が規制を作る」構図に〈CNET Japan(2026年9月18日)〉
要するに「規制しようぜ」って呼びかけて、自分だけこっそり開発進めようという魂胆なのでしょ? あるいは「おれたちこんなにすごいもの開発してるんだぜ!」っていう投資家向けのデモンストレーションとプロモーション。
◆ 1日990円の「滞在エリア」 大垣書店が「滞在型書店」を始める理由〈ITmedia ビジネスオンライン(2026年9月13日)〉
先週あたりにX(旧Twitter)でブックカフェの是非について論争が起きてたから気になったんですが、大垣書店の「滞在エリア(有料)」は、購入前の本を持ち込めるかどうか明らかになっていないのですね。他メディアの報道も確認したけど、まだ発表ベースでしか記事になっていないっぽい。気になる……と日刊で書いたらタレコミがありました。滞在エリアには購入前の本を持ち込めるけど、選書(注文)ベースだから売り切る覚悟という見解のようです。いずれ詳細は明らかになるでしょう。
◆ Google、AI回答に貢献したサイトに報酬を支払う「AI contribution pilot」をテスト中〈海外SEO情報ブログ(2026年9月15日)〉
きたー! でもどうせ対価はお安いんでしょ? と思ったら、やっぱり安いみたい。Geminiは広告だけのビジネスモデルではなくユーザーからも月額を取っているわけだから、権利者にもしっかり分配して欲しいところです。
◆ PubteX 一般物流でコスト抑え出版流通の「新しい選択肢」に 「注文流通ソリューション」10月開始へ〈The Bunka News デジタル(2026年9月15日)〉
◇ 【談話】「注文流通ソリューション」始動にあたって PubteX代表取締役社長・渡辺順氏〈The Bunka News デジタル(2026年9月15日)〉
◇ 出版物の流通危機「三つの要素が必要」 丸紅と出版3社が効率化へ〈朝日新聞(2026年9月15日)〉
◇ 小学館など出版大手3社、追加配送の書籍一部直送 EC配送車に混載〈日本経済新聞(2026年9月15日)〉
出版業界としては先週最大のニュース、でしょうか。雑誌流通をベースにした取次ルートから離れる道なのですが、このソリューションには取次も参加しています。「商流や新刊の送品物流、返品物流は従来どおり取次各社が担う」とのこと。取次を完全に飛ばしているわけではないという意味では、KADOKAWAの出版製造流通DXプロジェクト「BEC」と似ています。
問題は、株主出版社“以外”の中小出版社がどうなるか、でしょう。PubteX社長の渡辺氏は談話の最後で「出版社3社、書店法人6社と小さく始めますが、志を共にしていただける出版社・書店に広く参加していただける業界のプラットフォームにしていきます」と語っています。でも、全体像で中心に置かれているのは「①業界データプラットフォーム(RFID)」ですから、RFIDの装着が前提の仕組みなのですよね。志はともかく、中小出版社にRFIDのコスト負担は難しいと思うのです。
【技術】
◆ GoogleのAI検索分析に新機能 「表示回数」では物足りないの指摘も〈日本経済新聞(2026年9月14日)〉
「物足りない」というか、ぜんぜん「足らない」ですよ……Googleは意図的に情報を伏せていますよね。邪悪だ!
◆ AI学習は拒否、検索クロールは維持……Cloudflareの新機能「AI学習の不許可」 Google、Apple、Microsoftが対応〈ITmedia AI+(2026年9月17日)〉
ん? なんか変だな。Googleに限って言えば、検索のインデックス登録用ボットは「Googlebot」で、生成AIモデルの学習用データを収集しているのは「Google-Extended」です。メディア各社が困っていたのは、robots.txtでGoogle-Extendedはブロックできても、Google検索と一体になっている「AIモード」や「AIによる概要」はGooglebotの機能の延長上で行われている拡張検索生成(学習はしていない)だから、ブロックしたくてもできない点だと思っていたのですが。Googleが「学習は不許可」と言われたら、Google-Extendedがクロールしなくなるだけですよね。これまでと変わってなくない? と思うのですが。どうも学習と参照の混同が起きている気がする。
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NovelRecital、無事終了しました。出店者・参加者のみなさま、ありがとうございました。個人的にはいろいろ反省点も多く(イベントのたびに反省している気がする)、とくにインターバルが短すぎる点については「お前、ちょっと考えれば気づくだろ……」と自分で自分にツッコミを入れたくなりました。トホホ(鷹野)
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